「戦争は嫌だ」とは多くの人が思うことだろう。ただし、なぜ戦争が起きるのか、どうすれば平和を維持していくことができるのか。このことについて明確な答えはなかなか得られないように思う。
昨今のニュースや論壇では「戦争は悪だ」、はたまた「日本の戦争は正義だった(間違いだった)」などと、善悪二元論で語られるのを目にすることが多いが、本書では地政学の視点から、「善悪」「好悪」「勝負」などの一切の感情を排し、平和についてアプローチしていく。
1990年代、冷戦が終わり、日本も対米追従さえしておけば安泰、という状況ではなくなった。著者は、そうした新しい時代を分析できるような記者になりたいという思いから、勤めていた編集部を休職。コロンビア大学国際公共政策大学院に私費留学をし、修士号を取得して、現在はフリーランス記者として活動する。
本書は著者が、日本とは異なり、戦争をしている国・アメリカでの留学で得た知識をもとに、現実を考察することから書かれている。
本書で第一に挙げられるのは、日本人の安全保障に関する意識は薄すぎる、ということだ。日本では「安全保障=軍事」「軍事=忌避すべきもの」といった印象が支配的であり、安全保障は実際には経済や情報伝達も含めた幅広いものだという認識は希薄である。
一章から三章では、世界の安全保障の主舞台が「海」であること、「海の大陸」と「陸の大陸」から世界や歴史を見る視点、安全保障は軍事とイコールではないことなど全体的な論から、なぜ沖縄が米軍基地化されるのか、なぜ北方領土は返ってこないのかなど、より日本人にとって身近な問題についても論じていく。続く四~五章では、現実の国際安全保障問題を理解するために、尖閣諸島についての事例研究が行なわれる。
また、一般的にメディアで報じられる軍隊には破壊、殺戮といったイメージが強いが、実際には、相手国の戦意を挫き、戦争を「抑止」する役割も併せ持っていることを、客観的に示す。平時の軍事力とはいわば「家の戸締まりのようなもの」だと著者はいう。このように、本書では安全保障について、日本の世間一般とは異なった視点で、普遍的に語られているのが非常に刺激的である。
本書を読む前は、国際関係に関心がありつつも、国どうしの関係性について基礎的な知識がなく、大げさな表現になるが、連日の報道を見るたびに危機感を煽られる感じがあった。しかし本書を読み、地政学の基礎から各国の領土問題や、歴史上の戦争について、また日本の世界の中での立ち位置などを学ぶことで、各国とのやりとりを、そこまで恐れなくても良いのでは、と思うようになった。もちろん、だから何もしなくて良いというわけではない。周辺国の脅威は年々増しているように感じられる。ただ、これをいたずらに恐れず、客観的かつ冷静に考えようとする意識が自分の中に芽生えた。これが本書を読んだ一番の収穫かもしれない。
「国際関係に興味はあるけれど、どこから何を始めていいかわからない」。そうした方に、本書をお薦めしたい。地政学の基礎から、日本が目指すべき具体的な目標まで、初歩から易しく書かれているので非常に読みやすく、理解も深められるはずだ。
★まえだ・ともかず=名古屋学院大学外国語学部英米語学科4年。アメリカ留学の経験があり、現在はその経験を活かすべく、キャンパス内でTA(Teaching Assistant)として留学を目指す学生の支援をしている。