【めんどくさがりなきみのための文章教室/はやみねかおる】評者:杉本あすか(二松學舍大学文学部国文学科1年)

「人間は、猫と違って、文章を書く機会が多い。」

 作文やレポートだけでなく、人間は何かにつけて文章でやり取りをする。コロナ禍で直接会って話をする機会が減った分、電子メールやSNS等、文章でやり取りをする機会が増えた人も多いのではないだろうか。人間が生きることと文章を書くことは、切り離すことができないと言っても過言ではない。もしかすると、これからさらに密接になっていくのかもしれない。どうしても文章を書くことから逃れられないのなら、いっそ文章を書くことを楽しんでみるのはいかがだろうか。

 私が本書と出会ったのは、「書評に挑戦してみよう」と考え始めた頃だ。書評は初挑戦だったので、何かヒントが欲しかった。ヒントをもらうだけのつもりだったが、気付けば心を鷲摑みにされ、本書の書評を書くに至っている。

 指南書を読み始めるつもりで本を開くと、いきなり小説が始まって度肝を抜かれた。

 この本は、文章を書くことが苦手な中学生・文岡健が、喋る猫「マ・ダナイ」に教わりながら、どうすれば文章が書けるのかを学ぶ実用書であり、それにまつわる物語でもある。まずは「わかりやすい文章」を目指すところから始まり、「うまい文章」が書けるようになるところまで導いてくれるのだ。そのとっかかりとして、漠然とした文章への苦手意識を、「何を書いていいかわからない」「めんどくさい」というように「書けない理由」をはっきりさせ、ひとつずつ潰していく。例えば「何を書いていいかわからない」に対しては、「最初の1行の書き方」を教えてくれている。特に私は、「個性的な文章を書くためには、まず、基本的な文の書き方を身につけなくてはいけない」との教えに、目から鱗が落ちた。個性的な文章には、特別な技術が必要であると考えていたからだ。

 また、物語に着目すると、健とダナイのやり取りが漫才のようで、思わずくすっと笑ってしまう。ちなみに、「マ・ダナイ」という名前を付けたのは100年くらい前の飼い主で、健と出会う前は児童文学作家の家に住んでいたらしい。この設定も、わかればきっとニヤリとするだろう。

 本書は「文章教室」でありながら、登場人物が「先生と生徒」ではなく、「中学生と喋る猫」であるところに、著者の持ち味を感じる。日常の延長線上に非日常が当たり前のようにある世界観が、たまらなく面白い。中学生の頃、同著者の『都会のトム&ソーヤ』や『少年名探偵WHO』を読んで感じた胸の高鳴りを、本書でも味わった。書き方の指南を受けていたはずなのに、気付けば物語にも引き込まれている。そして読み終わった後は、とにかく何か文章を書いてみたいという意欲が湧いてくる。

 私は文章を書くことは好きなのだが、書き出す前に、頭の中で考えては却下する癖があった。しかし本書を読んで、うまく書くことを意識せず、とにかく何か文字を書き出すことができれば、文章は生み出せるとわかった。書いている途中でうまくいかない気がしても、後から修正できる。修正し、より良い文章へと磨きをかけていくことも、書くことの醍醐味である。文章を書くことは、思っているよりも気楽で、自分の気持ちや考えを表現できる、非常に楽しいことなのだ。

この記事を書いた人

★すぎもと・あすか=大阪樟蔭女子大学学芸学部国文学科2年・古典文学ゼミ所属。図書館司書と学芸員を目指し勉強中。趣味は図書館や博物館を巡り、展示を研究すること。

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