湊かなえさんの『少女』というミステリー小説は、非常に構成が凝っている。湊さんと言えば、本屋大賞など数々の賞を受賞された『告白』や、直木賞候補に残った『望郷』などが有名だが、私にとっては『少女』が魅力的だったのだ。
本書はタイトル通り、2人の少女が主人公である。親友の自殺を目撃したことがある転校生の話を聞いて、自分に酔っているようにも、自慢のようにも思った主人公の少女の一人は、自分なら死体ではなく人が死ぬ瞬間を見てみたいと考える。学校裏サイトに書き込まれたことがあるもう一人の少女は、死体を見たら死を悟ることができ、周囲に媚びない強い自分になれるのではないかと考える。
2人とも相手には告げずに、死の瞬間に立ち合うため、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く。そんな高校2年生の少女たちの、いつもとは少し違う夏休みを描く長編小説だ。
本書は、ある少女の「遺書」から初まり、「遺書」に終わる。この遺書による「まえがき」を読んだ時点で、サスペンスのような怖い話なのか、ミステリーのような推理する楽しさがある物語なのか、好奇心をくすぐられる構成になっている。
中でも私が魅かれたのは、この遺書を誰が書いたのか、という謎だ。「あとがき」でようやく、遺書の後半の内容を知ることができるのだが、最後の最後に記される名は、主人公の2人の少女のどちらでもない。最後のページに至って、今まで注目してきた2人の少女から、別の人物に中心が移ることで、また一から物語を読み返したくなる。繰り返し読んでも、新しい発見がある。これが私の思う、本書を読む上での注目ポイントの一つである。
もう一つの注目点は、物語の語り手が切り替わる部分である。この物語では、2人の少女が交互に語り手となり、ストーリーが進んでいく。その視点の切り替わりは、全てアスタリスクで表現されているのだ。
由紀という少女の語りが「*」で、敦子の語りが「**」で示されている。が、クライマックスで、アスタリスクが「***」と3つになる。相変わらず物語は2人の少女の視点から描かれているのだが、それはずっと素直になれずに意地を張っていた2人が、やっと分かり合い、お互いに同じことを思い、気持ちを共有するという場面なのだ。「*」+「**」だから、そのシーンだけアスタリスクが「***」となる。私にとって、3つのアスタリスクが、物語の高まりを象徴するように見え、面白く感じられた。
ミステリーの楽しみを、複線回収の仕方だと感じる人がいると思うが、本書の魅力はそれだけではない。こうした隅々まで見なければ気が付かないような細工が、作品に取り込まれるところも、本書の読みどころだと私は思う。
★うえの・さおり=大阪樟蔭女子大学学芸学部国文学科創作表現コース創作表現ゼミ奈良崎クラス所属2回生。
学校のオープンキャンパススタッフとして日々活動をしています。コロナ禍ということもあり色々な制限はありますが、学科紹介のパンフレットを作成したりして、精力的に活動しています!