【チーズはどこへ消えた?/スペンサー・ジョンソン】評者:福井未菜(甲南女子大学文学部2年)

「もし恐怖がなかったら、何をするだろう?」

 この言葉に立ち止まった。人間は常に変化に対する恐怖と闘いながら、取り組む物事の取捨選択をしているのではないだろうか。しかし、自分自身が変化しなくても、社会や時代や環境が変わることもありえる。たとえば、新しいリーダーが決まったとき、そのグループに属する者は、多くの変化に直面するはずだ。リーダー自身も周りの人も、変化にいかに対処するかで、大きな違いが出る。前任のリーダーとの違い、グループ内での自身の立場の変化、周りとの関わり方の変化、そうした数々の変化の波にすぐに乗れる人と逆らう人の間で意見が合わず、場がぎくしゃくする。そんな場面を学生生活の中でも、経験したことがある人は多いのではないだろうか。

 2020年で発売から20周年を迎えた本書は、世界的に有名なビジネス書として知られているが、社会人だけでなく、学生にも学べる点が多くあると感じた。私は、この作品と同じく2020年で20歳になり、大人への第一歩として手に取ったが、ここから考えさせられることは多く、中学、高校時代に読んでおきたかった一冊だと感じた。

 本書には、ネズミのスニッフとスカリー、小人のヘムとホーが登場する。ネズミのスニッフはいち早く変化をかぎつけ、チーズがなくなったことを受け入れる、スカリーはすぐさま行動を起こし、新しいチーズを探し始めた。状況が変わっても、自分たちもすぐに変化に対応できるタイプである。反対に、小人のヘムはチーズがなくなっていても、恐怖に怯えて、チーズがなくなったという変化を認めず流れに逆らってしまう、ホーはネズミたちに遅れながらも、チーズを探すため動き出し、うまく変化の波に乗ろうとする。

 それぞれ考え方も行動も違うため、読者もそれぞれに、思い当たる点が見つかるだろう。私も彼らの行動を見て、感じたことが二つあった。

 一つ目は、変化に早く気づき、対応することの大事さ。これは、普段から変化があることを想定し、素早く行動を起こしていたスニッフとスカリーから、気づくことができた。今まで、変化を認めれば、自分が安心できている現在よりも状況が好転するかもしれなくても、必ずしも良くなるかはわからない不確実な状況に飛び込むことを避けていた。私は恐怖を抱いていたのだ。

 二つ目は、変化は想像するほど怖くはないこと。変化の波に乗ったホーが思ったこととして、「自分の中につくりあげている恐怖のほうが、現実よりずっとひどいのだ」という言葉が挙げられている。つまり想定しているのは最悪の事態であり、変化に対する恐怖心には根拠がない。想像の恐怖に囚われているよりも、変化に反応して引き出された現実の方が、よほどいいと気づけた。

 想像の恐怖から抜け出すことによって私は、後悔のない学生生活を送るにはどうするべきかと、自分自身と向き合い、新たな一歩を踏み出す勇気が出た。たとえば、資格の勉強を始めたり、ボランティアに参加してみたり、大学の学生スタッフとして活動したりと、これまで失敗を恐れていた私が、あらゆることに挑戦してみようと、前向きになれた。そして何事にも積極的に取り組むことによって、成功や失敗に至る以前に、多くの人と出会い、貴重な経験ができていることを実感した。失敗を恐れていたときよりも、恐怖から抜け出した今の方が、視野も広がっているように感じられる。待ち受けている現実は決して怖くはないと、変化に対し恐怖を抱いていた頃の私に、そして変化を恐れているすべての人に伝えたい。(門田美鈴訳)

この記事を書いた人

★ふくい・みな=甲南女子大学文学部2年。日本語日本文化学科に所属し、日本の言語や日本文学、日本語教育について学んでいる。本を読むことが好きで、大学在学中に様々なジャンルの本を読みたいと思っている。

この本を読んでみる

コメントを残す