【Think clearly/ロルフ・ドベリ】 評者:栗原咲紀 (共立女子大学)


もしも「人生をより良く生きる一つの法則がある」と言われたら、あなたは信じるだろうか。恐らく、私を含め多くの人は信じないだろう。一つの法則で乗り切れるほど、私たちが生きている世界はシンプルでも画一的でもない。論理や答えがはっきりしている問題や選択はほとんどなく、それでも答えを迫られる機会は必ずやってくる。だが、もしも「多くの困難を上手く対処するための思考法がいくつかある」としたらどうだろうか。
 
例えば本を上手く書く方法、人付き合いがうまくなれる方法、就活で失敗しない方法などだ。誰しも、それらに準ずる行動の軸となるジンクスや考えはあるだろう。不思議なことに、私たちは皆「幸せに生きること」を願っているのに思考法は人それぞれだ。そしてその内のいくつが明確な根拠に基づいているかと言われたら、はっきり答えられる人は少ないのではないだろうか。
 
本書は、所謂自己啓発書だ。タイトルからわかるように著者は海外生まれで、人生の成功者だが、その経歴は巻末のプロフィールにしか書かれていない。だが、進路や就職や人間関係に悩まされている多感な女子大生として、筆者は断言したい。この本があれば、あなたはもう本屋で自己啓発書を探さなくて済む。あなたの財布から自己啓発書に投資されるお金もこの1800円(税別)で最後になるだろう。
 
私が本書の中で一番気に入っているのは、2ページ目の前置きで著者が「よい人生を説明できる究極の定義など存在しない」と言い切っていることだ。その上で、彼は本書に登場する52の思考法を「思考の道具箱」と呼んでいる。思考法なだけあって、本書を読んでいきなり幸せになることはない。しかし、私たちが重大な決断をするときや困難に立ち向かうとき、この思考法を使えば迷うことなく「より良い選択」に向けて行動できる。つまり我々は今まで通り自身の幸福を追求し、必要なときだけ「思考の道具箱」から適切な思考を取り出し使うだけでいいのだ。
 
自己啓発書では自分の成功(司法試験合格・TOEIC満点など)や体験談を繰り返し語る著者が多いが、本書の著者は他者の行動や説を語る。他者とは、著者の友人から、天才アインシュタイン、アメリカ人の著述家、経済学者ロバート・オーウェン、哲学者カント、偉大な思想家ビル・ゲイツなどだ。
 
具体的に一つ二つ紹介すると、チャーリー・マンガーの説から導き出された「解決よりも予防をしよう」、ローマの哲学者が推奨していた「不要な心配ごとを避けよう」などの思考法が道具箱には並ぶ。
 
彼の功績は、私たちが今まで言語化できなかった経験や直感を見事に表現し、使える思考法に仕上げたことだ。それらは体系的なもので、何度も顔を出す思考法もあるのだが、その整理や接続も当然のようになされている。複数のデータからなる統計から導き出された思考法、それだけでもどれだけ論理的で信頼できるかがわかるはずだ。もしあなたが明日選択を迫られても、本書があれば後悔しない決断のお手伝いが出来るだろう。最後に、ここまで読んでくれたあなたに送りたい著者の言葉がある。
 
「あなたも私も、何かを考えるときには、しっかりとした思考の道具や枠組みを持っていなければ前には進めない。たとえ、どんなに時代が変化しても、どれほど人間が進化しても」(安原実津訳)

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