【放課後レシピで謎解きを/友井羊】評者:片岡あみ(國學院大學文学部日本文学科4年)

 極度のあがり症で人と話すのが苦手な落合結。元陸上部でトラブルの火種になりやすいがまっすぐな荏田夏希。普通に出会えばきっと関わることのなかった正反対な2人が、校内で起こる事件をお菓子作りを通して解決していくことで、様々な人々、そして自分自身と向き合っていく物語だ。

 高校2年生の結と夏希はともに学校で浮いていた。結は人と会話することが苦手な上に、数少ない友人とクラスが離れ、頼りにしていたセンパイは卒業してしまい、1人でいることが多かった。夏希は猪突猛進で曲がったことが大嫌い。一方、注意散漫なことが多く、トラブルを多発し、腫れもの扱いされていた。そんな2人は、調理部の実習で2人が作ったパンだけが膨らまなかったという「事件」をきっかけに関わり始め、2人で謎解きをはじめる。なぜパンは膨らまなかったのか。猪突猛進の夏希が結を引っ張り、校内で聞き込みをし、レシピをヒントに結が謎を解く(「膨らまないパンを焼く」)。

 「足りないさくらんぼを数える」では、写真部の部室にあるさくらんぼの数が合わない事件と、そこに隠された一人の生徒の悩みを。「慣れないお茶会で語らう」では、結の作ったマドレーヌが消えた事件と、みつかったマドレーヌの味がしなかった謎を。「固まらない寒天を見逃す」では、夏希の牛乳寒天が固まらなかった謎と、その事件に潜むある人物の思いを。「落ちない炭酸飲料を照らす」では、陸上部の金庫から現金が盗まれた事件と、夏希が陸上部を辞めた理由を。「食べられないアップルパイを訪ねる」では、夏希が好きだったアップルパイを食べられなくなった理由を。「熟していないジャムを煮る」では、夏希の妹、千秋がいなくなった事件を。一つ一つ事件と向き合い、解決していくことで独りぼっちだった結と夏希は周りと交流し、関係を構築していく。夏希は結が傷つくことが嫌で、結は夏希が疑われるのが嫌で、お互いがお互いを守るために、苦手なことに挑戦していく。そうした行動はいつしか周囲の人の〝弱点〟や苦手を助けることとなり、「かけがえのない誕生日ケーキを分け合う」で、まわりまわって結と夏希に帰ってくる。

 本書は極上の料理と青春ミステリーが味わえる、女子バディものだ。ただこの物語の魅力の本質は、それだけでは表せない。起こる事件はどれも、学校生活や日常の範囲内にある。彼女たちが抱えている悩みもいわば「ありふれたもの」で、きっとどこの学校にも存在しているだろう。でも彼女たちはそれをないがしろにしない。どんなに苦手なことでも大切な人のために向き合い、乗り越えようとする。

 「ありふれたもの」「あたりまえのもの」、この物語はそこにスポットを当てる。誰もが日常で普通に食べているパンや寒天、炭酸飲料といったものに潜む謎。同じように、誰もが当たり前に思っている学校や社会の中に存在する問題。それに気づかせてくれるのが結と夏希の物語なのだ。

 うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女、2人の物語に出会ってほしい。読み終わったあと、今まで見ていた世界のフィルターが、1枚外れる感覚を味わうだろう。

この記事を書いた人

★かたおか・あみ=國學院大學文学部日本文学科4年。

文芸系のサークルにて、作家先生の講演会の開催準備をしています。直接お話ができる日を夢見て、日々奮闘中です

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