「死にたい」などと思うことは甘えであり、薄っぺらな悲劇のヒロイン的な感傷、自己陶酔も良いところ……と、斜に構えていた。しかし最近「死にたい」と思う瞬間が度々ある。実際に自分がそのような心境に至ったからか、それは案外大仰な思考ではなく、誰でもふとした拍子に死にたくなることに気がついた。
自分の環境や立場から逃れられない、実生活上での人間関係が、原因のひとつである。さらにはSNSが普及したことで、これまでならば積極的に繫がらなくてもすんだ誰かと、意に反して繫がらざるを得ない状況に陥ってしまうこと。SNSは情報収集や連絡手段として適度な距離感で付き合っていければ良いのだが、どうしても手放せず、依存気味の現代人は多い。SNSで見る他人の幸せが妬ましかったり、送られてくる理不尽な言葉に、遣り切れなさに苛まれたりもする。言葉の有する力は莫大であり、さらにSNSによって、私個人の領域内へ容易に、時には土足で踏み込んでくる。
本書は、そのような現代社会の悩みを解決する一助となる、目から鱗の考え方・捉え方のヒントが詰まった、「心の取り扱いマニュアル」だ。当たり前だが、他人は自分の思い通りにはならない。相手を変えることはできないのだから、自分の心持ちを変えることで、心にゆとりを持つ方法を本書は提案してくれる。
本書はどこから読んでも構わない。「パフェねこ」の四コマ漫画と解説が見開き一頁で掲載され、一つの問題が解決する構成になっているからだ。
例えば、「嫌な人のことをずっと考えてしまう」という小見出しの内容をみれば、「嫌な人のことを考えるのは、一緒に住んで家賃を払ってあげてるのと同じ」、「人の為に頑張っても感謝されない」なら「人に何かをする時は〝やってあげた〟ではなく〝やりたいからやった〟」、「人から褒められても、素直に受け取れない」なら「謙遜のしすぎは、〝お前は見る目がない〟と言ってるのと同じ」といった具合である。
私はHSP(Highly Sensitive Personを略した言葉。良くも悪くも感受性豊かで人一倍小さな刺激や変化に敏感。他人との境界線が薄い)であるため、特に対人関係において些細なことで思い悩み、すぐにぐったりと疲れてしまう。誰かの言葉を真に受け傷ついたり、自分と他人を比較して落ち込んだり……。本書は、日常にあふれており、しかしどうすることもできない他人との距離感のゆがみや価値観のずれ を、やさしく且つ軽快に斬って、解してくれる。
私は中学時代に体型が理由でいじめを受けていたが、当時浴びた心無い言葉は今でも重暗くのしかかっている。「いじめた方は忘れても、いじめられた方は覚えている」という言葉はよく耳にするが全くその通りで、人は自分が傷つくことには敏感なのに、他人を傷つけることには鈍感である。自分が相手のことをあれこれ考えて悶々としているほど、相手は自分のことを考えている訳ではない。かつて私を苦しめた彼らは、自らの発した言葉などはとうに忘れ、のうのうとパフェでも食べているのだ。そう考えると、随分と心が軽くなった。
多くの人が経験し得るモヤモヤが扱われており、漫画と端的にまとめられた解説という構成であるため、読書に慣れていない人にも薦めたい。本書は、人のささいな言動を気にして悩み、気持ちの切り替えが苦手な不器用な人にとって、ただでさえ生き辛い複雑化した現代社会で、穏やかに日々を送る手蔓となってくれる。(名越康文監修)
★いそべ・はるか=二松學舍大学文学部国文学科3年。廃虚と日本文化に魅せられました。ソロキャンプはじめました。35㎏のダイエットに成功しました。