誰かの心が動く瞬間が好きだ。この本に出てくる登場人物は不器用で臆病な人が多い気がするが、そんな人にも能動的に動こうと思うぐらいに、心が動く瞬間がある。この本は、六つの短編集で、そのような瞬間を切り取っている。
六話の中で特に印象深かったのは、二話目の「上映が始まる」である。大学院入試を控えるも勉強に身が入らない綿田彗は、隣町の科学館でプラネタリウム解説員のアルバイトをしているという女性と、ペルセウス座流星群の日に、たまたま河川敷で出会う。勉強の息抜きに来た綿田と、姉のプロポーズの成功を願いに来た女性は、宇宙や星座の話で盛り上がる。
翌日も勉強に身が入らない綿田は、ミネラルウォーターを落としたことに気がつき河川敷に行くと、スマートフォンを発見する。着信があり電話に出ると、それは昨日出会った女性からだった。「スマートフォンを落としたから駅前まで届けてほしい」と頼まれ、待ち合わせ場所に行くと、スマートフォンの持ち主――小梅りりはひときわ目立っていた。彼女は、右手に白杖を持っていたのだ。
小梅の誘いで科学館のプラネタリウム見学に行った綿田は、全盲の彼女がSiriの音声機能や読み上げ機能を使い、プラネタリウム解説をしていることを知る。努力しながら自分にできることを開拓していく姿から刺激を受け、天文学に憧れていた気持ちを取り戻す。
この話の好きなところは、偶然の出会いから相手の見えない努力や思いを知り、それまでの人生の軌跡に触れて、自分自身の憧れや好きを取り戻していくところだ。「きらめき」は、人によって違うだろう。素直な気持ちであったり、憧れであったり、情熱であったり、あるいは悩みや痛みかもしれない。しかし、ちょっとした偶然で、変わることができる。きらめきを落としたとしても、また拾えばいい。本当にきらめくものとは、自分の中に変わらずずっとあり、消えないのだと思った。
ほかにも、本心からお互いを見つめ直すようになる「ブラックコーヒーを好きになるまで」や、六月六日をタイムリープする「主人公ではない」、イヤリングを落とした女の子に一目ぼれし、再会するまでを描いた「ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン」、自分を不燃物だと思っているのに突出したヴァイオリンの才能を持つ主人公がバイト先のBGMをめぐりヴァイオリンに燃えていく「燃」、文芸サークルに入るも小説を書かない主人公と、久しぶりに出会った大手文芸サークル所属のヒロインが「言わなかったこと」をこじらせる話が収録されている。
ほか5篇の中でも心に残っているのは、「燃」のラストシーンだ。最後に主人公が、バイト先のBGMをヴァイオリンで弾くのだが、店長の思いに触れ、主人公の心が動く瞬間は、何度読んでも感動する。特に最後の一行に、タイトル「燃」の意味がつまっている気がする。
どの話も、希望を感じられ、前向きになれる終わり方が、暖かい気持ちにさせてくれ、自分の大切なものへの向き合い方を思い出させてくれる短篇集であった。
★いけだ・さら=大阪国際大学人間科学部3年。
読書と写真と音楽が好きです。最近のマイブームは音楽を聴きながら散歩をして写真を撮ることです。