【読書人カレッジ】 小林エリカ氏講演「記憶、歴史、放射能」

 2021年7月7日@明治大学

 七月七日、明治大学にて今年度第一回目となる「読書人カレッジ」が開催された。作家・マンガ家の小林エリカ氏が講師を務めた。小林氏は「目に見えないもの」、記憶や歴史、「放射能」を主なテーマとし、様々な表現活動を手掛けている。その表現の源泉となるのは、一冊の本と家族の歴史だ。

 十歳のときに読んだ『アンネの日記』の影響を「アンネが〝私の望みは、死んでからもなお生きつづけること!〟と書いているのを読んで、作家になれば死なずに済むのだと衝撃を受けました」と話した。そして父の八〇歳の誕生日に、実家の本棚で父の日記を見つけたこと。その第二次世界大戦中から敗戦までの日記を見て、父とアンネが同年の生まれだと気づいた小林氏は、『アンネの日記』と父の日記を手に、アンネゆかりの地を旅した。そうして書かれたのが、『親愛なるキティーたちへ』だ。

 またレントゲン医師だった祖父の存在と、若き父の誕生日の日記に、「キュリー夫人伝を読了」とあり、父がなぜ敗戦直後の食べ物も十分にない中でこの本を読んだのか、その謎が放射能の歴史の探究へと向かわせたと話す。『キュリー夫人伝』から彼女の「実験ノート」や郷土資料への旅、ウランが採掘されたチェコのヤーヒモフという街のこと、キュリー夫人が世界で初めて目に見えるものとして取り出した放射性物質、ナチ・ドイツ下のオリンピックで初めて聖火リレーが行われたこと、ウランから原子爆弾を生み出そうとする各国の闘い、戦後、平和利用として原子力発電所がつくられたこと……。「プロメテウスの火は、神から盗んで人に与えられた最初の火。人間は闇を恐れ、太陽のように輝く光を、この手におさめたいと望み続けてきた」。放射能の歴史を探ることで、現在の社会を知り、さらに未来を考える起点となっていることが、小林氏の様々な作品と合わせて紹介された。

 講演後、読書にまつわる質問に答え、「本がなかったら今の私はないと思う。遠い場所や遠い時代に生きていた人に、本を通して出会えることに感動します。アンネ・フランクという、違う国、違う時代に生きていた人の言葉に、これだけ人生を左右される不思議を感じます」と話し、ほかにも自分にとって大切な一冊として、ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩集『終わりと始まり』と、スベトラーナ・アレクシエービッチのドキュメント『チェルノブイリの祈り』を挙げるなど、学生との濃密な対話が行われた。