【読書人カレッジ】長崎尚志氏講演「創作の世界に参加するために」

 

2022年6月24日@明治大学

 六月二四日、明治大学にて今年度第一回目となる「読書人カレッジ」が開催された。作家・漫画原作者・脚本家の長崎尚志氏が講師を務めた。

 レイ・ブラッドベリ『何かが道をやってくる』を小学五年生の頃に読み、小説の面白さに気づいた長崎さんは、そこからSFやファンタジー小説を読むようになったという。当時よく読んでいた小説として、『ロード・オブ・ザ・リング』の原作『指輪物語』や、宮崎駿氏の息子、宮崎吾朗氏がアニメ化した『ゲド戦記』、『プリデイン物語』やアラン・ガーナーの作品などが紹介された。その後、自身が作家・漫画原作者・脚本家になるまでの経歴を振り返り、現在の青年漫画というジャンルを確立した漫画家の手塚治虫と白土三平作品との出会い、高校を卒業し一年ほど社会人として働いてから大学に入学したこと、自分がやれそうな仕事は編集者しかないと思い出版社に入社したこと、漫画雑誌の部署に配属になったことなどを語った。

 また、学生から寄せられた事前質問の中でも多かった「創作のポイント」については、「構造」をキーワードに次のように解説した。

 「創作には、本しか頼るものがありません。本は知識の宝庫です。創作をしたいなら、まずは時間をかけて本を読んでください。量より質で、丁寧に読み、その作品の構造を意識してください。速読はあまりおすすめしません。資料読みとしての速読は別物ですが、スピード意識でたくさん読んでも、構造に気がつかなければあまり意味がないんです。

 皆さんは失望するかもしれませんが、創作とは模倣です。人類は何千年も前から神話や伝説を作ってきたので、どこかに必ずそっくりな話がある。今まで誰も考えなかった斬新な物語なんて、存在しません。これは私の言葉ではなく、天才漫画家の藤子・F・不二雄さんも同じようなことを言っていました」。

 「プロと名の付く作家や編集者、プロデューサー、シナリオライターは、物語の引き出しをいくつも持っています。彼らはある作品を読んだり観たりしたときに、構造が似ている他の作品をいくつか挙げることができる。私はこれを「才能」と呼んでいます。知識の積み重ねや反復練習によって、物語を生み出すために何をどう努力するか、何を参考にするべきかを知っている。プロが持っているのは、天賦の才ではなく努力の才です」。

 さらに、創作に取り組む際の具体的な訓練として、次のような方法を紹介した。

 「アマゾンで評価が高く面白いと言われている作品を買うのもいいけれど、たまには本屋に行ってヤマカンで本を三冊買ってみる。多分そのうち一冊は、面白くないと感じるものがあるでしょう。そこで本を閉じるのではなく、どうすればこの作品が傑作になったか考える。すると、似て非なるオリジナルの物語が生まれるかもしれませんよね。反対に面白い本であれば、一旦途中で読むのをやめて、自分ならどういう展開にするか考えてみる。その本の結末が想像通りだったら自分を褒めればいいし、違っていれば違う作品を生み出すヒントになります」。

 最後に学生に向けて以下のメッセージを述べ、長崎さんは講義を締めくくった。

 「今日集まってくださった皆さんは、何かしらの創作の世界に行きたい方が多いような気がします。作家を目指していると言って、周囲の人から反対された人も中にはいるでしょう。作家になれたとしても、日々の生活に悩むことがあるかもしれません。でも、諦めなければ何とかなる。覚悟を決めて、身を投じてみることも大切です。もしくは全く違う業界に行って、会社や社会を眺めてみる。そういう取材だと思って、数年働いてから創作の世界に戻ってくるのもいい。諦めないことが一番大切だと、私は思います。少しでも興味があれば、ぜひ創作の世界に参加してみてほしいです」。