【読書人カレッジ】佐々涼子氏講演「人生を物語るということ」

  

2021年10月8日@明治大学

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「事実に基づいて書くノンフィクションは、自分の人生を書けば本になる可能性があります。あなたの人生を書ける人間は、あなた以外には誰もいない。当事者であることは、ノンフィクションを書くうえで、非常に強く読者を惹きつける力を持っています」。

 当事者性を軸に、佐々氏が紹介したのは以下の四冊。

①富裕層の家を掃除するメイドとして働く、シングルマザーのステファニー・ランドの著書『メイドの手帖』

②自らも吃音に悩まされた近藤雄生さんが、「どもる」ことについて書いた『吃音』

③東日本大震災後、あちこちで聞かれた幽霊の話を、取材をもとにまとめた金菱清ゼミナール編『呼び覚まされる霊性の震災学』

④ドイツの動物性愛グループを取材しながら、対等な性愛とは何か考えていく濱野ちひろ『聖なるズー』。

 また、自身の著書を辿りながら、ノンフィクションの面白さも述べた。

 「私のデビュー作『ミケと寝損とスパゲティ童貞』は、日本語学校の教師をしていた経験から執筆しました。開高健ノンフィクション賞を受賞した『エンジェルフライト』は、国際霊柩送還士を追った作品で、最新刊の『エンド・オブ・ライフ』では、末期のがん患者を取材しました。

 困難や悲しみ、悔しさが、当人の中だけにあるときは、暗い気持ちのままです。しかし、その想いがまとめられ、誰かの目に触れたり知られると、希望にかわる。そんな不思議な作用を、私は何度も目の当たりにしてきました。ノンフィクションでは、事実はつくれないし、亡くなった人を生き返らせることもできません。でも、その人の人生をどのように解釈し、どういう物語を作るかは、書き手の自由です。これが、ノンフィクションの醍醐味だと思います」

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  質疑応答の際、読書の意義ついて尋ねられた佐々氏は、「読書で大切なのは、楽しんで読むこと」と答えた。

 「映画や音楽と同じように、娯楽だから読書は続けられる。面白いと感じられずに飛ばしたり、手放したとしても、縁があれば、その本はまた戻ってきます。面白いと思える時まで待って、その間に読むべき本を読んでおきましょう。

 教養を深めるため、人格形成のためと、見返りを求める読書は楽しくないですよね。それに、本を読んだからといって、人の気持ちが分かるようにはならないと、私は考えます。他人の気持ちは分からないので、推測するしかないんです。それよりも、なぜ今、本を読もうと思ったのか、自分の感情に気がつくことが大事です。たとえば、他人と上手く関われず残念に思ったからかもしれない。そんな自分の感情の機微に気づけたとき、他人と繫がれたり、相手の苦しみに気づくことができます」。

「本を読むことは、たくさんの人の人生を経験すること。そして、自分の人生をどのように解釈し、どう生きるか、考え直す作業です。大変な出来事も、いい出来事も永遠には続かない。未来がどうなるかは分からないけれど、思ってもみなかった将来がやって来るのは確かです。今の経験がどうなるか知るためにも、生きてみることが大切です」。