【奇跡の本屋をつくりたい/久住邦晴】評者:小林捺哉    (帝京大学教育学部初等教育学科4年)

 本に気持ちを込めて全力。その生き様を「本気」と私は表したい。

 遺稿・解説・草稿と続くこの実話は一人の書店店主の、最高に尊敬するお節介なオヤジの挑戦の記録だと思う。

 私は大学図書館で本を様々な形で紹介する活動をしている。私はこの活動が好きだが、何度も、もう終わりだと思う。先がない不安に駆られて眠れない。自分から書きたいと言ったこの書評も進まない。パソコンとにらめっこして、笑えない状況で、永遠に続く闘い。自分の感性や体験から言葉を出して、出して、出して、誰かに届くように刺さるように、本へ纏わせようとする。それでも言葉がみつからなくて、深夜に誰もいない公園で本について話し続けることもあった。それを一丁前に本に人生が狂わされたと思っていた。

「本には人生を変え、奇跡を起こす力があります」(本文より)

 本を読んでいると時々身体の芯にしみこんでいく言葉に出会う。不思議と心の奥に落とし込まれていく。

 この本を開いたのは活動に行き詰まっていて、本に関する企画のアイディアを探していた時だった。書かれていたのは、赤字で書店を閉めようとした時息子が亡くなり、店を閉める理由が息子のせいになってはいけないと、奮闘を始めるオヤジの姿だった。

 衝撃的な企画やアイディアの数々。新潮文庫の売上げ一五〇一~最下位までと、良い本が多いのに売れないちくま文庫、合わせて一五〇〇点を集めた「なぜだ!? 売れない文庫フェア」、このフェアの発展形で、始めてみたらお客さんが代わる代わる読むようになった店内での「朗読会」。それから、勉強になるかどうかは考えない中学生向けの本を集めた「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」、これは「小学生はこれを読め!」「高校生はこれを読め!」と続く。また講演を開けるカフェを併設した「ソクラテスのカフェ」、くすみ書房のオススメ本が年4回届く「くすみ書房 友の会 『くすくす』」。その全てを成功させた。まだまだアイディアは途切れず「中学生の本棚」と「高校生の本棚」がある本屋を作る「奇跡の本屋プロジェクト」、中高生が夢中になれる感動する本屋を作る「THE BOOKs green」へと進んでいく。行き詰っていた私も心が踊るような企画に胸を打たれた。しかしその裏には、企画の数だけ、あがらない売り上げもあったのだ。

 きっとひどく辛い時間があって、一人で闘わないといけない勝負もあった。それでも挑み続ける姿に、心が震えたと同時に畏怖を覚えた。私はオヤジと同じ状況の時、誰かに染み込んでいく言葉で、本を薦め続けられるだろうか。

 わからないけれど私はそういう人になりたいと思った。大学生活が終わろうが本と共にあって、読書を薦めるお節介な人になる。いや、こういうこねくり回した言葉ではなくて

「ああ、やっぱり本が好きなんだなあと改めて思いました」(本文より)

この記事を書いた人

★こばやし・なつや=帝京大学教育学部初等教育学科4年。関心のあることは、いつまでたっても自己紹介がうまくならないこと。

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