【ポップス歌手の耐えられない軽さ/桑田佳祐】評者:森本拓輝(大阪国際大学人間科学部3年)

 日本を代表するミュージシャン・桑田佳祐が、何かと話題の『週刊文春』でエッセイ連載を始めた。本書は、新型コロナウイルスの猛威が世界を襲う少し前の2020年1月号から、真只中の2021年4月号までの連載を1冊にまとめたものである。『週刊文春』を毎週買うのは、金銭的に大学生には厳しい。大学の図書館、かかりつけの病院(コロナ禍で雑誌は撤去)、行きつけの食堂などでつまみつまみ楽しんでいた(ごめんなさい、購入した週もあります)。単行本化を待ち望んでいた。本にはサザンのキーボード担当で奥様の原由子さんの日記が収録されているのも嬉しい。

 本書の魅力は、桑田さんの学生時代や家族の話、音楽や偉大な先輩方との出会いから、「稲村ジェーン」の裏話や好きな歌手の話、近年の活動、原さんとの日常まで包み隠さず綴られているところだろう。

 一方、本書には「昭和時代を知る貴重な文献」としての価値もあると思う。桑田さんと同世代の読者は、懐かしさを覚えるだろうし、私のような平成生まれの読者は、昭和時代を覗き見ることが出来る。ページ下のスペースに、エッセイ内に登場する人名、曲名、映画作品などの解説も記されているので、昭和時代をテーマに扱う卒業論文の参考文献にもなるのかもしれない。また本書には、時代を超えた邦楽・洋楽がたくさん紹介されているので、プレイリストを作成して曲を流しながら読むと、桑田さんが過ごしてきた青年時代を体験することができる。

 2021年の年末の大型音楽番組で、ただ歌唱するのではなく、司会者にコブラツイストをお見舞いした茶目っ気な桑田さん。本書では、桑田さんのあったかさにも触れることが出来る。各エッセイの冒頭はたとえば、「長らく続いた学校休校なんて、何ともカワイソウでしたね……」「やりたいのに出来ないことがあって、我慢に我慢を重ねなくちゃいけないのって、何歳になってもツライですよね……(汗)。」など、まるで桑田さんからお手紙をいただくような気持ちになる。桑田さんも、このコロナ渦の大変な状況を同じように、共に生きてきたのだと感じることができる。「はい、何とか元気です。」と私はこの書評を利用して、桑田さんへの返事を書いているのかもしれない。

 印象に残るエッセイを挙げるとキリがないが、特に紹介したいのは、「このウイルスにワクチンは無い」である。坂本冬美さんに提供した「ブッダのように私は死んだ」の発表後、歌詞やミュージックビデオが不謹慎だという意見に驚いたことを綴っている。桑田さんは、フィクションであり娯楽作品ですと言い、先達の創作にも「いけない事」が沢山盛り込まれてきたと語る。桑田さんが過ごした昭和時代の娯楽という娯楽は、令和時代でいう「炎上もの」に溢れていた。さらに桑田さんは、ハミ出すことが難しい世の中で、カリスマやスーパースターと呼ばれるエンターテイナーは登場しづらい。昔からそういう人たちはハミ出しまくっているからこそ素晴らしかった、と例として渥美清さんや長嶋茂雄さんを挙げている。なぜこの2人なのかは本書を読んでいただきたい。

 幅広い世代が〝ポップス歌手桑田佳祐〟に惹かれる理由はおそらく、新しいことに挑戦をして、世の中からハミ出すことを気にせずに、自身がやりたいことを発表し続けているから。だからこそ、デビューから約40年、第一線で活躍しているのだ。本書で新たな桑田さんの一面を知り、さらにファンになった。あぁ、またライブでお逢いしたいです!!

この記事を書いた人

森本拓輝 / 大阪国際大学人間科学部3年

★もりもと・ひろき=大阪国際大学人間科学部3年。ソロ楽曲『明日晴れるかな』で桑田さんのファンになり、2015年からサザンオールスターズ応援団に入会。近年、サザンでは2019年の愛媛公演、ソロでは、2021年の全国ツアーは宮城2公演をひとりで満喫しました。『炎の聖歌隊【Choir(クワイア)】』のライブバージョンが特に感動しました。

週刊読書人2022年3月4日号掲載(データ版購入可能)

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