【風が強く吹いている/三浦しをん】評者:川野莉歩(大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科4年)

 三浦しをん、彼女の名は、あまり本を読まない私でも知っていた。ただ有名な小説家だということ、最初の情報量はそれだけだった。そんな私が何故本書を読んだのか。
 
きっかけは、2018年10月から日本テレビ系列で放送されていたテレビアニメ『風が強く吹いている』だった、私はそのアニメに夢中になってしまったのだ。
 
その後で、原作が小説であることを知った。小説ではアニメで描かれていた様々な場面が、どんな風に描写されているのだろう、その興味から本を購入してみると、あっという間に読み切ってしまった。
 
主人公は二人、ハイジとカケルという大学生だ。高校時代に暴力事件を起こし、駅伝から遠ざかっていた才能溢れるカケルと偶然出会うハイジ。そんなカケルをハイジは格安学生寮に誘う。そこには個性溢れる八人の学生が住んでいた。カケルとハイジを合わせて十人。そしてハイジは全員に告げる、「ここに居る十人で箱根駅伝を目指す」…と。
 
箱根駅伝、誰もがよく知るイベントだろう。例年正月の二日間に渡って行われる大学駅伝の競技会だ。私も毎年欠かさず見ている。襷を繋ぐために全力で走る選手たち、脚本も演出も何もないはずが毎年違ったドラマや感動が生まれる。
 
この物語はそんな箱根駅伝を舞台にした青春小説である。

 
本書の見所は何よりも主要登場人物十人である。主人公のハイジやカケルは勿論、他のメンバーまで。全員がとても魅力のあるキャラクターなのだ。二年間浪人、加えて二年間留年をしているヘビースモーカーのニコチャン、司法試験に一発合格した秀才ユキ、クイズ番組が大好きな就活生キング、田舎育ちの好青年神堂、国費留学生のムサ、漫画オタクの王子、元サッカー部の双子ジョータとジョージ。初めは乗り気ではなかった部員が、だんだん駅伝に対して真剣になっていく。その背景に注目してほしい。ある者は家族のために、ある者は過去の自分のために、そしてある者は皆のために。無我夢中で箱根を駆け抜けることになるのだ。
 
私には最も心に残った台詞がある。 「俺は知りたいんだ。走るってどういうことなのか」
 
これは主人公であるハイジの台詞だ。カケルに対し「走るのが好きか」と尋ねた後に放った台詞である。走るとはどういうことなのか。私はこの問いをとても難しく感じた。そもそも「走ること」に対して深く考えたことは一度もない。それは私が駅伝を経験したことがないからかもしれない。しかし、経験していたとしても難しい問いだと思う。この場面でハイジはどんな答えを欲していたのか。「楽しいから走る!」なんて安易な答えが欲しかったわけではないだろう。走ることは一体なんなのか。この問いは解決することができるのだろうか。
 
「学生時代」「青春」という言葉を聞いて思い浮かべるものは何だろう。恋愛、文化祭、修学旅行。沢山の行事や印象深いエピソードがあるはずだ。その中で私は迷わず部活動と答える。恋愛もお祭りごとも旅行も大人になってから味わえるものだ。しかし部活動は違う、部室があって、顧問がいて、部員がいて……学生時代だからこそできる活動なのだ。時には笑い合い、喧嘩もし、涙を流す。彼らの絆を見て、部活に一生懸命打ち込んでいたあの日の気持ちが蘇った。
 
彼らが本気で走り抜いた青春を、是非手に取って見届けてほしい。

この記事を書いた人

★かわの・りほ=大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科4年。趣味は音楽鑑賞。最近は行ったことのない場所へお散歩に行くことが好きです。

の本を読んでみる

コメントを残す