【アキラとあきら/池井戸潤】評者:仲田楓(獨協大学法学部法律学科3年)

 「運命」や「宿命」という言葉に、どのようなイメージを持つだろうか。筆者にとって、それは「変えることはできない未来」である。そして本書のキーワードにも、「運命」や「宿命」が挙げられるが、読後、私の中のイメージは少し変わったのだった。

 本書の主人公は、山崎瑛と階堂彬である。彬は、父と二人の叔父のしがらみを目の当たりにし、「自分はこの運命から抜け出そう」と考え、父の会社を継ぐことなく、銀行員になった。一方、瑛は銀行に対して良い印象を持っていなかったが、父親が経営する会社が危機に瀕したとき、担当者であった銀行員に「会社だけでなく会社員の家族も救いたい」という熱意を感じ、「自分もこうなりたい」と、銀行員を志した。

 二人の共通点は、それぞれの運命にもがいている点である。彬は、そのまま家業の大会社を継いでもおかしくない才をもつ人物だ。瑛も、父親の会社がうまくいっていたら、家業を継ぐことを考えただろう。しかし彬と瑛は、確固たる意思を持って、自ら道を拓き、銀行員という職に就いた。

 本書ではまた、彼らの成長と並行して、「家族」についても描かれている。瑛と彬の家族の在り方は共通しておらず、むしろ逆だ。階堂家では、叔父の崇と晋は、兄(彬の父)に対して劣等感を持っており、彬の弟の龍馬も兄の才能に嫉妬し、叔父たちと同じ感情を抱いている。彬は幼い頃から、家族というものに対して、小さな亀裂を感じ続けていたのかと考えると、なんだか悲しくなってしまう。一方、山崎家では、会社の経営苦に伴う危機が訪れるたびに、家族が一致団結し、繰り返し困難を乗り越えてきた。その家庭環境が、瑛の持ち前の明るさや、上司に稟議書を却下されても諦めない熱血さを作り上げてきたように感じる。家族の在り方の違いと、それに伴う彼らの性格の違いが、「互いを補うコンビ」として、読者に印象付けられるのだ。

 印象深かったのは、東海郵船倒産の危機を回避するために、彬が社長になったとき、産業中央銀行の担当者として、山崎瑛が付くことになった場面である。彬は「あいつが稟議を書いてそれが承認されなかったら、他の誰がやっても通らない。もしあの山崎がウチを見放すことがあったらそのとき――東海郵船は終わりだ」と言う。この言葉は、彬が瑛を信頼し、必要不可欠な存在だと認めていなければ、出てくる言葉ではないはずだ。絶大な信頼が寄せられているからこそ、瑛も、「必ず東海郵船を助ける」という信念のもとに行動できるのではないだろうか。この場面に、2人のコンビネーションの根源を見ることができるだろうと筆者は考える。

 本書には努力することの大切さや、目の前に立ちはだかる壁に向かう様子が生き生きと描かれている。さらに、家族がいてくれることのありがたさも、改めて認識することができるだろう。筆者は大学3年生で、もうじき就職活動が始まる。しかし自分が将来どのようになりたいのかを見通せておらず、そんな自分に落ち込んでしまうことがある。そのような中で本書を読んで、彼らから、自分の努力次第で人生は良い方にも悪い方にも転がるということや、何があっても諦めない心を学ぶことができた。数年後は、筆者自身も彼らのような社会人として活躍していきたい、そう思わせてくれる小説である。

この記事を書いた人

★なかだ・かえで=獨協大学法学部法律学科3年。

現在関心を持っていることは、野球です。今年のWBCを観て、オリックス・バファローズの宮城大弥選手が好きになりました。これからたくさん現地で観戦したいです!

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